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記事 世界を〈構築〉することでSFは人類の在り方に挑戦する:池田純一の『三体』三部作レビュー

世界を〈構築〉することでSFは人類の在り方に挑戦する:池田純一の『三体』三部作レビュー

世界を〈構築〉することでSFは人類の在り方に挑戦する:池田純一の『三体』三部作レビュー
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※本記事には物語の核心に触れる部分がありますので、十分にご注意ください

『三体III』の冒頭で、『三体I』で亡くなっていた楊冬が登場した場面は、この作品がシリーズの完結編であることを強く意識させるものだった(ここでは第1作の『三体』を『三体I』と記しておく)。

楊冬は、葉文潔の娘であっただけでなく、羅輯の高校の時の同級生だった。『三体II』の序盤で描かれたように、むしろその縁がきっかけで、羅輯はある日、葉文潔から後に暗黒森林理論に結実するいくつかの仮説を聞かされ、一方的に宇宙社会学の開発を任されてしまった。羅輯自身は、気づかぬうちに葉文潔の弟子にされたようなものだ。その結果、三体星人に目をつけられ、それがきっかけで三体星人への対抗策をひとり悶々と考える面壁者、さらには執剣者の任に就くという数奇な運命を辿ることになる。『三体III』で登場する執剣者とは、暗黒森林理論に則って地球滅亡も辞さずに三体星の位置情報を宇宙に向けて発信する大役を担った者のことだ。そんな巻き込まれ体質の羅輯も、最後には執剣者の継承者である程心を支援していた。

世界を〈構築〉することでSFは人類の在り方に挑戦する:池田純一の『三体』三部作レビュー

こう見てくると、楊冬は、葉文潔-羅輯-程心、と続く三部作の主人公の流れを作るのに一役買っていた。その楊冬をわざわざ再登場させたのは、すべての元凶であった葉文潔のことを読者に改めて思い出させるためであったことは間違いないだろう。

はたして、文化大革命から始まり、宇宙の終焉と再生への期待で終わるシリーズをどう受け止めればよいのか? シリーズを通じて、文革時代からの離脱を寿いだものとして読むことも可能なのだろうか? 確かに傷心した葉文潔が抱いた「この世界を破滅させたい」という願いは、最後にはかなってしまった。ただし、破滅させる「世界」は地球だけでなく、宇宙そのものにまで至ってしまったのだが。

物語を率いた3人の主人公

葉文潔が始め、羅輯が引き継いだ宇宙叙事詩は、程心の奮闘によって終幕を迎えた。冬眠装置のせいで時間の経過はバラバラだが、しかし、この3人を主人公に据えることで、『三体』三部作は、世代間の違いを際立たせることができた。その点で羅輯は、葉文潔と程心という全く方向性の異なる2人の女性の間をつなぐ媒介役であった。

羅輯は葉文潔の抱いた宇宙に対する不信から暗黒森林理論にたどり着いた。だが、その真理では宇宙自体がもたないことにも気づいていた。そのため、未来の世代によって異なる真理に基づき宇宙が運営されることを願い、秘密裏に光速宇宙船の建設に着手し、最後には程心を外宇宙への旅に送り出した。

ある意味で程心は、平和ボケした世代の象徴のような甘ちゃんだが、しかし、その誠実さが宇宙を救うことになる。なぜなら、結局、最後に行き着いた結論は、ゼロサムゲームの宇宙はただの閉鎖系でしかなく総殲滅戦に至るしかないということだったからだ。超ひも理論が示すように、もともと宇宙は11次元からなっていたのに、知性体間の生存競争から、最後にはゼロ次元にまで落ち込んでしまう。星は死に、次元は消える。そして遂には宇宙も死滅する。こうなると、宇宙生命間の共存倫理でも新たに生み出さない限り、宇宙の存続は難しい。その結末が、最後に「宇宙を創り直す」という、まるでゲームをリセットするような所業に知性体たちは向かっていったことだった。

タグ: aiはいつ人間の知性を引き継ぐのか